6月7日に開幕する【W杯フランス大会】に向け6月2日にフランスで最終強化試合が行われた。
対戦相手は近年、メキメキと力を付けているスペイン代表。日本と同じくUnder世代の強化に力を入れておりサッカースタイルもよく似たチームだ。
開幕直前の重要な試合であり、日本代表なでしこJAPANの仕上がり具合を楽しみにテレビ観戦をスタート。
なでしこJAPANスタメン
登録ポジション | 背番号 | 名前 | 所属 | OUT | IN |
GK | 1 | 山下杏也加 | 日テレ・ベレーザ | ||
DF | 2 | 熊谷紗希 | オリンピック リヨン | ||
DF | 3 | 市瀬菜々 | マイナビベガルタ仙台レディース | 15分 | 三浦成美 |
DF | 4 | 南萌華 | 浦和レッズレディース | ||
DF | 17 | 清水梨紗 | 日テレ・ベレーザ | 31分 | 三宅史織 |
DF | 23 | 鮫島彩 | INAC神戸レオネッサ | ||
MF | 5 | 杉田妃和 | INAC神戸レオネッサ | ||
MF | 6 | 中島依美 | INAC神戸レオネッサ | 45分 | 宮川麻都 |
MF | 11 | 長谷川唯 | 日テレ・ベレーザ | 45分 | 宇津木瑠美 |
MF | 14 | 籾木結花 | 日テレ・ベレーザ | 31分 | 遠藤純 |
FW | 20 | 横山久美 | AC長野パルセイロ・レディース | 15分 | 菅澤優衣香 |
前半戦評
概ね予想通りのスタメンだったがボランチに市瀬選手を起用。どうやら阪口選手は心配された膝の状態が思わしくないようだ。
MFだけは長谷川選手、中島選手、杉田選手、阪口選手で不動だと考えていたので阪口選手が起用できないというのは大きな誤算だ。グループリーグ最終戦の強豪イングランド戦(日本時間6月20日)に間に合う事を祈りたい。
注目された2トップは横山選手と籾木選手。籾木選手はスーパーサブ的な立ち位置だと思っていたが最終強化試合という事もありスタメンで試してみるのも悪くはない。
試合の立ち上がりは悪い意味で近年のなでしこらしかった。
互角、或いは格上のチームと対戦すると高確率で高い位置からプレスを掛けられ、足元の技術が無い選手が焦ってミスパスをし大きなピンチを迎える。試合中、何度も見る光景だ。
そして、なでしこリーグのゆるいスピードに慣れているので、相手チームのスピードに慣れるまでに時間を要す。慣れた頃には前半が終わっているというのが今のなでしこ。
ルーズボールは必ずと言っていいほど相手にボールが渡り、人数をかけてもボールを取り切れない。全盛期のなでしこはFWから連動して守備をし澤穂希さんがボールを奪い切っていたが、今の代表はFWがガツガツあたって行かない。他の選手も連動する事はなく相手ゴール前から一気に自陣まで攻め込まれるのがパターンと化している。
前半、特に動きに精彩が無かったのが市瀬選手。杉田選手とのダブルボランチだったがバランスをと取るような場面も少なく、何でそんな場所にいるのとツッコミたくなるようなポジション取り。まるでワンボランチで試合をしているかのようだった。相手のパスコースを潰すような動きもなく、ただ後ろから追っているだけの様に私には見えた。
ほぼ、防戦一方の前半だったが以前より良くなっていた分部もあった。
以前はバックラインでパス回しをして出しどころが無くなっても無理にパスを繋ごうとして、相手にボールを奪われ大ピンチを迎えていたが、イージーなプレーに切り替える場面も幾つかあった。(まだまだ以前のようなプレーの方が多いが…)
試合は前半22分にペナルティーエリア内で市瀬選手がハンドを取られPKを与えてしまう。このPKをFW10番ジェニフェル・エルモソ選手が冷静に左サイドに蹴り込み先制点を奪われてしまう。このハンドの判定自体は不運なものであったが前述の通り試合開始直後から相手に主導権を握られ後手後手の展開になったのがPKを与えてしまうという結果になった。
前半の日本は殆ど良い所が無く、敵陣深くでボールを奪い最後は中島選手が右サイドから切り返してシュートを放った場面以外は攻撃らしい攻撃を見せる事はできなかった。
後半戦評
日本はメンバー交代をせず後半のキックオフ。
後半はスペインも疲れが出てきたのか日本がボールを保持する時間帯もあった。しかし、守備面は相変わらずで全員が連動して守備をするという形にはならない。
まず最初の選手交代が後半15分に行われた。市瀬選手がOUT→三浦選手がIN。そしてFWの横山選手がOUTで菅澤選手がIN。
交代して入った三浦選手はポジション取りも良く相手選手に対して冷静に対峙。日本が主導権を握る時間帯を作った。しかし、イージーなパスミスやトラップミスでなかなかチャンスを作れない。これに関しては誰がどうという事ではなくチーム全体としてスキルが低いように感じた。
菅澤選手は前線でボールをキープし溜めを作る役割を期待されて投入されたと思うが、なかなかそのような場面を作れない。フレッシュな状態なのでもう少し激しくプレスをかけて欲しかったが、横山選手同様、守備面でも物足りなかった。
0-1のまま膠着状態が続いた後半31分、籾木選手OUT→遠藤選手IN。清水選手OUT→三宅選手INでシステムを4-2-3-1に変更。1トップの位置に菅澤選手。
この選手交代が見事にハマる。後半40分、左サイドの敵陣深くでボールを持った遠藤選手が浮き球で相手ディーフェンダーの裏へパス。そのパスを受けた杉田選手がキーパーとディフェンダーの間に素晴らしいクロスを上げ、菅澤選手が倒れ込みながらも同点ゴールを決めた。
その後はアディショナルタイムにもピンチを迎えるもキーパー山下選手のファインセーブなどで何とか同点のまま試合を終えた。
総評
W杯直前の最終強化試合として非常に心配になる試合だった。
まず、改善しなければいけないのが試合の入り方。とにかく相手のプレッシャーに怯まず落ち着いたプレーをする必要があるし、日本も前線から連動して激しくプレッシャーをかける事が大切だ。
若い選手が多いので、落ち着いた心理状態で試合を進めないと最後まで相手のペースで試合が進んでしまう。
もう一つはボールを持っていない選手の動きが少ない事。高倉監督はキーパーを含めたバックラインからのパス回しで相手を崩す事を理想としている。しかし、バックラインからパスを回そうにも周りの選手の動きが無く、パスコースが見つからないまま苦しいパスを出し相手にパスをカットされたりプレッシャーを掛けられ、そのままボールを奪われるケースがあまりにも多過ぎる。
一番大事なのは周りの選手が動いてパスコースを作る事だが、それが出来ない場合はもっとイージーに前線に長いパスを出したり、外に蹴り出すなど臨機応変に対応する必要もありそうだ。今日の試合ではいつもよりイージーなプレーを選択する場面もあったので、その辺りは少し改善傾向にあるように思う。
この他、基礎スキルの欠如。先程も書いたがボール蹴る、ボールを止めるといった基礎スキルが明らかに欠如している。今更どうする事もできないが、あまりにもイージーなミスが多い。
イージーミスからピンチを迎えたり、イージーミスでチャンスを潰す場面が多かった。
大会まで時間も無いので急にスキルが上がる事はないが、なるべくイージーミスは減らさなくてはいけない。
そして最後にルーズボールや相手と競った時のボールをしっかり奪い切る事。この部分がW杯優勝時のなでしこJAPANと大きく違うところ。とにかくボールを奪い切れない。脚だけを出しても海外選手の方がパワーがあるので相手のほうにボールがこぼれてしまう。身体全体を使って奪い切るくらいの気持ちがないと解消される事はないだろう。スライディングを多用するのは賛否あるだろうが澤穂希さんがスライディングを多用してボールを奪い切っていた姿を思い出して欲しい。あれくらいやらないと海外選手からはボールを奪えないと分かった上でのプレーだったのだと今更ながらに感じる。
今回の強化試合で厳しいなと思える選手がハッキリしたのは良かった点でもあるし悪かった点でもある。
23人の中に起用するのが厳しい選手がいるというのは、それだけ交代などの選択肢を少なくするし格下相手にスタメンを変更して戦うという事も難しくなる。
あまり選手個人を批判したりはしたくないが、この試合の出来が市瀬選手にとってMAXでない事を祈っている。このままではスタメンはおろか途中出場でも使いにくい。しかし、代表に選出されてる選手だ、必ずや本番には良いコンディションで臨んでくれるだろう。
そうでないと阪口選手が復活しない限りはボランチが手薄だ。
但し、交代で入った三浦選手は安定していたのでそこはプラスに捉えたい。
後半45分に投入された宇津木選手、宮川選手も少し厳しいなと感じた。アディショナルタイムだけの短い時間でミスを連発。宇津木選手はコンディションが悪いという情報もある。宮川選手は相手のボールに触れる事もできない場面が多いように見受けられた。今回だけでなく、ここ最近の代表の試合では似たようなパフォーマンスしか出せていないのも気になるところ。
この試合で一番の収穫は遠藤選手。期待している選手だが最年少にも関わらず堂々としたプレーを披露。各世代の代表に飛び級で選出された経験が活きているような気がする。日本の得点シーンの起点となった浮き球のパスもとても19歳とは思えない落ち着いたプレーだった。
スーパーサブでの起用が多くなるだろうが、ひょっとするとスタメン出場の可能性もあるかもしれない。今大会だけだなく、今後のなでしこJAPANの中心選手になるであろう存在だ。
そして、キーパーの山下選手も落ち着いたプレーを見せてくれた。一度、パスミスから大きなピンチを迎えたがアディショナルタイムのファインセーブは気持ちもこもっていて本当に素晴らしいプレーだった。ハイボールにも冷静に対応できていたので正ゴールキーパーに一番近いポジションにいるのではないだろうか?
W杯本番に向けて
試合後の高倉監督のコメントも非常に厳しいものだった。
・相手の時間帯が長かった
・修正点はたくさんある
・自分たちのボールになった時にミスが多過ぎた
高倉監督も残念に感じる試合だったとは思うが切り換えて頑張ってもらいたい。
ここまできて急に大きく変わる事はないだろうが、チームとしての共通認識を高め、連携を高める事は可能なはず。なでしこJAPANのウィークポイントである守備面が少しでも改善されれば自分たちの時間帯も増え、良い試合ができるだろう。
正直、ガッカリした最終強化試合ではあったが、落ち込んでいる暇はない。反省点を可能な限り修正し、なでしこらしくガッツのある試合を見せて欲しい。
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