2019年9月15日に開催される。【MGC・マラソングランドチャンピオンシップ】
女子は15名が出場権を獲得したが世界陸上選手権女子マラソンに出場する3選手は出場辞退となり12名で争われる予定だ。
MGCは東京オリンピックのマラソン代表を決める重要な大会である為、非常に注目度が高い。
当サイトではMGC出場選手を1名ずつ紹介している。
第2回目となる今回は前田穂南選手をPICKUP。
前田穂南 プロフィール
名前 | 前田穂南(まえだほなみ) |
生年月日 | 1996年7月17日 23歳 2020年6月現在 |
血液型 | 不明 |
出身地 | 兵庫県尼崎市 |
出身校 | 大阪薫英女学院高等学校 |
所属 | 天満屋 |
身長・体重 | 166cm・46kg |
種目 | 自己ベスト |
1500m | 4.28.15 |
3000m | 9.23.06 |
5000m | 15.35.21 |
10000m | 31.34.92 |
ハーフマラソン | 1:09.08 |
30kmロード | 1:38.35 日本記録 |
フルマラソン | 2:23.48 |
前田穂南選手は小学校の時から足が速く、小学1年生の時にマラソン大会で優勝するなど大活躍。その後、担任の先生に勧められ陸上を始めた。
園田東中学校では陸上部に所属し本格的に取り組み始める。
中学時代は1500mを中心に練習していたが兵庫県はレベルが高く全国大会はおろか近畿大会に出場した経験もない。ちなみに中学時代の1500mのベストタイムは4分40秒10。
あまり目立った成績を残す事は出来なかった前田選手だが陸上競技や他のスポーツでも有名な大阪薫英女学院高校に進学。
自宅から通学していたとのこと。
陸上の強豪校である大阪薫英女学院高校だが前田選手の1学年上には松田瑞生選手(ダイハツ)、同期には立命館大学に進学し活躍した加賀山姉妹、後輩には高松望ムセンビ選手(元ナイキオレゴンプロジェクト)もいた。
【全国高校女子駅伝】のメンバー入りを目指し努力するも結局、一度も都大路を走る事はなかった。ちなみに前田選手が3年生の時の全国高校女子駅伝で大阪薫英女学院高校は優勝を果たしている。
目標だった駅伝メンバーにこそなれなかったが中学時代から力を入れていた1500mでは3年生の時にインターハイ大阪府予選に出場し当時の大会新記録で優勝している。
天満屋入社
2015年、高校卒業後は実業団の名門、【天満屋】に入社。
元々は進学を考えていたようだが、なかなか進学先が決まらなかったのと勉強をしたくなかったという理由で声を掛けてくれていた天満屋に行く事を決意。
天満屋は過去に4大会連続でオリンピックのマラソン代表選手を輩出し育成力に定評がある。前田選手も天満屋に入社する際は、マラソンで世界と戦いたいという気持ちを持っていたそうだ。
企業に所属しているので当然、仕事もしている。前田選手は経理を担当する部署で値札作りなどの作業をしているそうだ。
入社当初は練習に付いていけないメニューもあったと言う。
中学、高校時代は1500mを中心に練習していたが長い距離の練習の方が得意でスピード系の練習を苦手にしていた。
2年目になると練習にも慣れ、少しずつ結果が出るように。トラックで自己記録を更新していった。
しかし、どれも実業団のトップレベルで戦えるタイムではなく前田選手自身も長い距離の方が向いているのかなと感じていたようだ。
マラソンに挑戦
2年目からは本格的にマラソンを意識た練習に取り組み始め、2017年1月の【大阪国際女子マラソン】でマラソン初挑戦。この時はネクストヒロイン枠での出場となった。
結果は2時間32分19秒で12位。高卒2年目の初マラソンとしては素晴らしい結果だったと思う。
前田選手は日本人の長距離選手としては身長が高く、手足も長くストライドが非常に大きい。走りも無駄な動きが少なく省エネなのでマラソンに向いている。
食事も相当量食べるようなので内臓も強いのだろう。
北海道マラソン優勝・MGCファイナリスト第1号
2回目の2017年8月の真夏の【北海道マラソン】。前田選手は国内招待選手として参加した。
この北海道マラソンは【東京オリンピック】の代表選考会であるMGCへの出場権を懸けた大会でもあった。
日本人選手1位かつ2時間32分以内のタイム。または日本人選手2~6位かつ2時間30分以内のタイムでMGC出場権を得られる。真夏の大会という事もあり、他の選考レースよりタイムは遅く設定されている。
レースは中盤を過ぎてから野上恵子選手が飛び出す展開に。しかし、前田選手が33km付近で前を走っていた野上選手を捉えると、そこから一気に突き放しそのままフィニッシュ。
初マラソンの時のタイムを2分以上縮める2時間28分48秒のタイムで優勝を飾った。
この結果によりMGC出場権を獲得。女子のMGCファイナリスト第1号となった。
MGC本番も暑い時期に行われる為、真夏の北海道マラソンを勝ち、暑さに強いという事を証明した意味も大きいだろう。
マラソン2回目でまだ21歳(当時)、強烈なインパクトを残した。
東京五輪女子マラソン代表の有力候補!?
マラソンで才能を発揮し始めた前田選手は自身3回目となる2018年の大阪国際女子マラソンで更なる成長を示した。
集団で牽制し合いながら中盤まで進んだレースだったが25km過ぎで前田選手が仕掛ける。一気にペースアップしペースメーカーを置き去りにし後続を引き離す。この光景には驚かされた。とても21歳(当時)でマラソン3回目の選手とは思えない大胆さと強気な姿勢。MGC出場権を持っているので色々な事に挑戦できる立場であったとはいえ、なかなか簡単にできる事ではないだろう。
31km過ぎに大阪薫英女学院高校時代の先輩である松田瑞生選手に抜かれるが自己ベストを大幅に更新する2時間23分48秒の好タイムで2位でフィニッシュした。
レース前から武富監督に飛び出す策を授けられ、いとも簡単に実行してしまう精神力は凄いの一言。普段はおっとりしているように見えるがレース後、次は「松田選手に絶対勝つ」とコメントし負けず嫌いな一面も見せた。
このレースを見た陸上ファンは優勝した松田選手と2位の前田選手を高評価。MGCで優勝争いをする可能性が高い事を示した。
スランプ?
ここまで順調な成長を見せる前田選手だが最近は少しスランプ気味な印象がある。
2018年の大阪国際女子マラソン後は同年9月の【ベルリンマラソン】に出場した。高速コースという事もあり前田選手も自己記録更新を目標に掲げて出場。しかし、2時間25分23秒で7位。同レースに出場していた松田選手に3分もの大差を付けらた事を考えても不満の残る内容だったに違いない。
長い距離を走る事は得意だが速いペースでの走りだったり海外選手特有のペース変化に対応する力はまだ足りていないように感じたレースでもあった。
今年は3月の【東京マラソン】に出場。こちらも高速コースでベルリン同様、自己記録更新の2時間21分台を目標に出場した。しかし、当日は気温が低く雨も降りしきる最悪のコンディション。男子マラソンの日本記録保持者、大迫傑選手も低体温症のような感じで棄権した。
前田選手もレース序盤から動きが鈍く、2時間31分42秒の12位で震えながらフィニッシュ。
暑さには強いが見た目に脂肪が少ない印象があるので寒さが堪えたのだろう。
しかし、条件がどうであれ順調な成長を見せていた前田選手がここ2回のマラソンで凡走しているというのは事実だ。
MGC本番はもう間近。不安のある部分は解消していかないと上位2名に入るのは難しいだろう。
MGCで寒さを感じる事は間違ってもないだろうが、スピードの変化にはきっちり対応できるようにしておきたい。タイムより順位なのでハイペースにはなりづらいとは思うが、どこがで必ずペースアップする瞬間がくる。ペース変化に対応するのが難しいようであれば大阪国際女子マラソンのように自ら仕掛けて最後まで粘り切る戦略も悪くないだろう。どちらにしても一瞬の切り替えは必要だ。
現在、どのような状況なのかは情報が少なくて分からないが最高のコンディションでMGC本番当日を迎えてもらいたい。
MGC優勝!!東京五輪女子マラソン代表内定!!
2019年9月15日に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)に出場した前田穂南選手は見事な走りで優勝。東京オリンピック女子マラソン代表に内定した。
スタート時、気温24℃、ゴール時、気温29℃という予想された通りの残暑の中でのレースとなった。
順位を意識しスローな展開を予想していたがスタート直後から一山麻緒選手(ワコール)がハイペースで引っ張る予想外の展開に。
最初の5kmは下り基調だったとはいえ16分31秒という冬場のレースでも滅多にお目に掛かれないタイムで通過。
前田選手は集団の前方で余裕のある走りをみせていた。
有力視されていた松田瑞生選手(ダイハツ)がこの速いペースに付ていけず離される苦しい展開に。
10km地点では前田選手が先頭に立ち松田選手も先頭集団に戻ってきた。
15km地点でも前田選手が先頭を引っ張り、先頭集団は前田選手、安藤友香選手(ワコール)、福士加代子選手(ワコール)、小原怜選手(天満屋)、鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)の5人に。
個人的に良く見えたのが前田選手と安藤選手だったが安藤選手は17km過ぎから腰が落ちはじめ18km辺りでズルズルと後退。優勝争いは早くも前田選手、鈴木選手、小原選手の3人に絞られた。
この時点でコアな陸上ファンの方の多くが前田選手の優勝を確信したのではないだろうか?
スタートから終始、余裕のある走りで先頭を引っ張る事を苦にする事もなく淡々と走っていた。
更にはレース前からどこかで仕掛けると宣言していたし、自分からレースを動かす事が得意な選手なので、どこかで必ず引き離しに掛かるだろうし、その余力が十分あるように感じられた。
しかし、レースは意外な形で決した。
前田選手が仕掛ける前に小原選手も鈴木選手も付いていけなくなり独走状態に。
1時間11分5秒というハイペースで中間地点を通過し、2位の鈴木選手にはこの時点で10秒の差を付けていた。
その後は差が開く一方。前田選手はこの過酷な条件の中でもペースの落ち込みを最小限にとどめ、35km地点では鈴木選手に2分もの大差を付け優勝を決定的なものにした。
前田選手自身は後半、タイムを上げられず満足いくタイムを出せなかったと語っていたがフィニッシュタイムは2時間25分15秒。個人的には高橋尚子さんのバンコクアジア大会(1998年)、野口みずきさんの東京国際女子マラソン(2007年)、山口衛里さんの東京国際女子マラソン(1999年)に次ぐくらいの衝撃的なレースだった。
10km以降は完全に自分の力のみで走り切り、この酷暑の中、素晴らしいタイムを叩き出した前田選手に対してはただただ強いの一言。
停滞する女子マラソンだが少なくとも前田選手はオリンピックで入賞争いできるだけの力は備わっているように感じる。
まだ若く、練習次第では更なる上積みもあるだろう。
昨今、タイムばかりがクローズアップされるマラソン界だがやはり自分でレースの主導権を握れる強さが非常に大切だと痛感させられた。特に世界選手権やオリンピックは厳しい条件の中で開催される為、速さも勿論、大事だが、それ以上に強さが必要になってくる。
前田選手には他の日本人選手が持っていない強さを感じた。
過去、何人ものマラソン日本代表を輩出してきた天満屋の中でも武富監督曰く、前田選手が一番ストイックだとのこと。
どんなに最先端の技術や指導法があってもマラソンほど練習量が必要でそれに耐えるだけの丈夫な身体を持っていないと強くなれないスポーツはないかもしれない。
しかし、前田選手には努力する真面目さと、それに耐えれるだけの丈夫な身体が備わっているようだ。あの細い身体からは全く想像できないが…
レース後、目標は東京オリンピックで金メダルを獲得する事と語っていたのも非常に嬉しかった。高い目標を持っている選手は応援したくなってしまう。
今回のマラソンは過酷な条件の中でかなりタフなレースとなったと思うので、まずは身体をいつも以上にユックリ休めてもらいたい。想像以上のダメージがあると思う。
オリンピック本番までに1レースは挟んでくると思うが、更に強くなった前田選手を見れる事を期待している。
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